宝石姫と我が儘な教え子
「先生、授業のテーマ攻めすぎじゃない?」
「そうかな?でも美術に興味無い子もいるから、できるだけみんなの将来に役立つことを教えたいと思って。」
さっきの男子生徒である。スラッとした長身に制服を着崩した少しラフな姿で、琥珀色の髪が光に透けて輝いていた。髪の毛を眺めているのに気がついたのか、その子が「染めてないよ」と不貞腐れたように言うので笑ってしまう。
確かに生徒指導の先生に注意されそうな色ではある。彼の目立つ容姿でこの髪の色では、何かと誤解されてきたのだろう。
「そうだね。瞳の色と同じだから、君は生まれつき少し色素が薄いのかもね」
その子の主張を認めたのに、彼は面白くなさそうに眉をしかめる。
「君じゃなくて、高柳 宗次郎(たかやなぎ そうじろう)」
なるほど、「君」と言われたのが気に食わなかったようだ。子供扱いされるのを嫌う様子が微笑ましくて、「分かった、高柳くんね」と言い直した。
「もう少し無難な内容にしないと、お偉いさんに目をつけられて教師になった後で苦労するよ」
「大丈夫。そういうの関係ないもの」
「ふーん」
高柳くんは「教員免許取るだけで、ホントに教師になる気はないタイプの人か」と一人で納得していた。確かにそういう実習生もいるかもしれない。けれど彼の推測は少し外れている。私は教員免許を取る気もないタイプだ。実習生として教壇に立つこの日々だけが、私の全てである。
「勿体ないね。先生の授業楽しいのに」
「本当!?嬉しいなっ。高柳くんはどの内容に興味を持ってくれたのかな?」
「先生が浮かれてるのが楽しい」