宝石姫と我が儘な教え子
「そ、そうかなぁ…」


「うん。先生、すごい楽しそうだったね」


誉め言葉に舞い上がった直後に、残念な真実を告げられてしまった。授業の内容より私の高揚が伝わってしまうとは…。


「授業中すっげー幸せそうに見えたのに教師になるつもりは無いんだ。どうして?」


琥珀色の瞳が大人びた光を放ち、どう答えていいか分からずに戸惑う。しかし彼は友達に呼ばれて大勢の人の輪に戻っていった。


「鋭い子だな…」


これからは気を付けなければ。生徒に伝えたいのは私がどれだけ楽しいかではない。悠久の時を刻む石の物語である。人間が宝石を美しく磨きあげるために築いた技術。一ヶ月の期間では話し足りないほど授業への想いは溢れている。



「瑠衣先生、ルビーとサファイアが同じコランダムなら、何で赤色だけルビーって名前になるの?」


「そうね、宝石として名付けられた頃には見た目でしか区別できなかったから、同じ種類の鉱物とみなされなかったんだよね。そういう石はルビーとサファイア以外にもあって……」


あの日以来、高柳くんは授業の前後によく質問に来るようになった。授業中は相変わらずぼけーっとしてるけれど、話した内容は全部覚えている。彼の質問に答えるのは楽しくて、気がついたら下校時刻になっていることが何度もあった。



「青葉先生」ではなく「瑠衣先生」と呼ばれるのは彼のやたらとフレンドリーな性格のせい。彼はクラスメイトの女の子をだいたいファーストネームの呼び捨てで呼んでいる。そういう接し方が受け入れられる男の子なのだ。
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