過ぎ去りし王国
他国がこの王国に開国するよう求めているのは、ダニエルのような貧しい人々の間では有名な話だった。ダニエルは開国に賛成している。貧しい人々も同じだ。

しかし、国がどう動くかまだ何も進展はない。ラジオをつけても、国王を褒め称えるだけのものが永遠のように流れている。

「……中の掃除でもするか」

ダニエルはそう呟き、ラジオをつける。かなりの大音量だったため、少し音を小さくする。

はたきを持ってダニエルがカウンターから出た時、まだ開店前だというのに扉が開いた。

「すみません、まだ開店前でーーー」

笑顔を作り、顔を上げたダニエルは入ってきた客に驚く。それは、この街で有名な不良たちだった。

「エリカ!!」

不良の一人にエリカは捕らわれている。エリカは恐怖で体を震わせていた。

「……何が望みなんだ」

ダニエルは相手を刺激しないように、なるべく穏やかな声を心がける。エリカは妻が残してくれたたった一つの宝だ。傷つけられるわけにはいかない。
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