拝啓 元カレ上司サマ

「不貞なんて違う。そうじゃなくて…、煌太の記憶が戻ったんだと思うの…。
でも、話し合っていないから、本当のところはまだ分からなくて、私、煌太に、お前はもう必要ないって言われるのが怖くて、ずっと、この話を避けてきたの。でももう、私、堪えられなくて…ウウッ」

記憶が戻ったという件(くだり)で、両親は驚いて優希の話に聞き入ったが、またグスングスンと泣き出した娘を心配顔で見る。

母親が父親の腕に肘で合図を送り、父親が娘の頭を撫でながら言った。

「優希、煌太君の記憶が戻ったらどうするか決めていただろう?記憶を失って心細くなっている煌太君の支えになるはずじゃなかったのか?」

優しく諭す父親の、労るような物言いに、優希はまた泣きたくなった。

30を過ぎても、中学生か高校生の娘にするように接する彼らに少し躊躇いながらも、親身になってくれるこの両親の有り難みが、優希には痛い程分かったのだった。




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