拝啓 元カレ上司サマ
優希の両親は些か納得いかないと、煌太に詰め寄る。
記憶の件は仕方のないことだとしても、その後の煌太の優希に対して見せた態度は非難に値すると、そして、愛娘の受けた心の傷を癒すつもりがあるのかと。
優希の両親は更に付け加えて言った。
「煌太君、本当は取り戻した記憶の中に、ここでは話せない過去があるんじゃないのか。だから優希にあんな対応をしたのではないか、どうだ、答えてみなさい……」
話を遮るように優希が強く言い放つ。
「少しでも煌太がやり直してくれる気持ちがあるなら、もう一度夫婦として過ごしたいの。どうか彼を責めないであげて。過去に何があっても、きっと上手くやってみせるから」
この時の優希は、煌太が正気を取り戻したのだと考えていた。
まさか、煌太が失意の底で投げやりになっていた、などとは思いもしないで。
こうして、両家の話し合いで二人がやり直すことが決まったためか、皆は晴れ晴れした様子で解散となった。
しかし、岡谷家の面々の心は直ぐに沈んでいった。
麗香との思い出を心の奥底に封印した煌太が、これから先、本当に笑うことが出来る日が来るのだろうかと気掛かりで…。