拝啓 元カレ上司サマ
小一時間へたり込んでいた優希だったが、書斎で仕事中であろう煌太に悟られる訳にはいかないと、働かない頭をフル回転させる。
どうやってこの難局を乗り越えるべきなのかを、あらゆる感情を駆使してわざわざ損得勘定で考える。
何故なら、愛する夫の失われていた記憶の中に、きっとこの世で一番大切な女性が、ずっと消えずに残っていたのだから。
まともな思考で模索したとしても、捨てないでと煌太に泣いてすがることになるかも知れないなんて、優希にとっては苦痛以外の何物でもない。
そして暫くして、優希の考えは纏まった…わざわざ寝た子を起こすことはないのだと。
どうせ煌太に何を尋ねても、何でもないよと答えるに決まっているのだからと、半分諦めたにも似た感情も湧いてしまう。