秘密にしないスキャンダル
「りゅ……シキテンさん?」

「こんにちは。
……もう“シキテン”でいいけど“シキテン”って何?」

それはこっちの話なので気にしないでください。と勇菜は握手会に久々に訪れた変装した隆矢……シキテンに若干の戸惑いと嬉しさを混じらせて微笑んだ。

ファンとしての隆矢の姿を恥ずかしさから見つけてほしくなさそうだったのと話すタイミングが無かったので、隆矢には変装した隆矢を見つけたと伝え損なっていたことを今思い出した。

「……すごく久しぶりですね?
お仕事忙しかったんですか?」

「まあ、それなりにね」

「お体壊さないでくださいね。
その、会いに来てくれないととても心配するので……」

アイドルと一ファンとしての距離ってどれくらいだっけ?と少しだけ戸惑いながら言うとシキテンさんに、ユウナちゃん。と小声で名前を呼ばれた。

「駄目だよ。
そんな表情でそんなこと言われたら、いくらただのファンだとしても勘違いする……」

「え……」

それじゃ。と勇菜の斜め後ろに待機している堀原に視線を移し軽く会釈するとシキテンさんはそのまま去っていった。

「……そんな表情って、どんな表情してるの……?」

鏡があったら今すぐ確認したいけれど、握手するために並んでくれている長蛇の列を目の前にしてそんな時間はなかった。
勇菜は若干熱くなった頬を両手で軽く叩くと気合いを入れ直して握手を再開した。
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