秘密にしないスキャンダル
「……私はたまたま通りすがっただけよ。
その子が勝手に落ちたの」

聞こえてきた声は確かに美佐だと確信するが身動きもとれないし二人の雰囲気に話に入るのも躊躇われる。
じっと静かに隆矢に身を委ねていると、大体……。とさらに美佐が話しだした。

「その子がわざと落ちたのかもしれないじゃない。
突き落とされたとか言ってまた私を貶めようとして」

「ユウナはそんなことをする子じゃありません」

「じゃあ隆矢君に抱きとめてほしくて、かしら?
考えが穢い子……これだからチヤホヤされるだけのアイドルは……」

「聞こえませんでしたか?
ユウナはそんなことをする子じゃない」

美佐の言葉を遮り強めの言葉で言い放つと暫しの静寂が訪れた。
やがてコツコツと靴音を鳴らして誰かが去っていく気配がしたので恐らく美佐がどこかに行ったのだろうと小さく息をつくと顔を上げて隆矢を見た。

「隆君、どうしてここに……。
あ、それよりも助けてくれてありがとう、重かったでしょ?怪我は?」

矢継ぎ早に質問すると隆矢は、大丈夫、勇菜は?と逆に質問された。

「私は隆君が守ってくれたから大丈夫。
どこも怪我してないよ」

抱き締められていた腕が離れ急いで立ち上がって無事な姿を見せると隆矢は安心したように微笑んだ。
そして隆矢が立ち上がろうと手を床につけたときに顔をしかめたを勇菜は見逃さなかった。
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