秘密にしないスキャンダル
「監督……もうユウナに会いに行ってもいいんじゃないですか?
て言うか連絡くらい取らせてくださいよ……」

映画が大詰めで忙しいのもあったが隆矢が勇菜と会えないどころか連絡が一切とれない理由、それは監督の指示だった。

「クランクアップまでは駄目だよ。
一ノ瀬君はユウナちゃんに会えない、話せないってイライラしてるときの方が役のイメージにピッタリだから」

朗らかな顔で言い放つ監督に隆矢はその場に座り込み大きな溜め息をついた。
持ち前の演技だけでは補えないクールな役柄が勇菜と会えずにイライラしている雰囲気に良い具合に合っていると気付かれた時に連絡すらとるなと指示された。

その指示を受け入れたのは以前勇菜と“事務所や勇菜の両親にちゃんと認めてもらうために俳優としてもっと頑張る”と約束したからだった。

「クランクアップした瞬間にユウナに会いに行く……」

「そうそう、その意気だよ」

頑張って。と監督に肩を叩かれた。
画面では陽人と背中合わせに立った勇菜がゆっくりと手を動かしながら伸びのある声で歌っていた。
いつもの笑顔ではなく曲に合わせてか少し切なそうに歌うその表情に隆矢は胸が締め付けられるようだった。
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