あなたが私を忘れても、私はずっとあなたを忘れない
伊藤先生はそう言って、素早く教室を出て行った。

私たちは、一斉に吹き出した。



学校が終わると、私は寄り道せずにすぐに家に帰る。なぜなら、おばあちゃんの見守りをしなければいけないから。

家族の介護は二十四時間となり、心身ともにゆとりのない生活になることが多い。昼間おばあちゃんの見守りをしているお母さんに、休憩してもらうためだ。

おばあちゃんは、週に二回デイサービスに通っているが、今日は行かない日だ。早く帰ってあげないと…!

私が走りながら帰っていると、家の近くで佇むおばあちゃんを見つけた。私の背筋がヒヤリとする。

「おばあちゃん!何してるの?」

おばあちゃんに近づき、声をかける。すると、おばあちゃんは困ったような表情をした。

「スーパーに牛乳を買いに行きたいんだけど、どっちに行けばいいかわからないの」

認知症の人が初めて来た場所で迷ってしまうのはよくあること。これが自分の通り慣れた道で起きるということは、認知症がかなり進行しているということだ。

胸が、ズキンと痛む。時間とともにおばあちゃんはどんどん全てを忘れ、壊れていく。
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