あなたが私を忘れても、私はずっとあなたを忘れない
その後は、何とかおばあちゃんを家に連れ戻すことができた。

認知症は、最近起きた出来事を忘れていくのが特徴。昔のことは覚えていたりする。

普通の物忘れと違うのは、普通の物忘れだと体験の一部を忘れる。例えば、「今日の朝ごはん、何を食べたっけ?」。これが認知症になると、体験全てを忘れてしまう。「今日、朝ごはん食べたっけ?」。

認知症で一番苦しんでいるのは、家族ではなく本人……。

私は、隣に座ってテレビを見ているおばあちゃんの横顔を見つめた。



その夜、私は二階にある自分の部屋で音楽を聴いていた。歌を聴くと、心が落ち着いてくる。

お父さんとお母さんは、リフレッシュするために映画を観に行っている。家には、私とお兄ちゃんとおばあちゃんの三人だ。

夕方、徘徊はあったけど、その後は何も起きなかった。

夕食だって、おばあちゃんはきちんと食べていたし、お風呂も入っていた。このまま穏やかに一日が終わる、そう思っていた。

ドーーーーン!!

突然、一階から大きな物音が響く。私はびくりと肩を震わせ、音楽を止める。

「おばあちゃん!危ないから!」

一階からは、お兄ちゃんの声と何かが割れる音などが響いてくる。

私は立ち上がり、一階へと向かった。
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