Love Eater
甘い匂いが…する?
鼻を掠める匂いに歩んでいた足を止めると振り返る。
視界に広がるのは薄暗い裏路地。
人っ子一人いない裏路地だ。
今視界に収める分には。
それでも、スンッと嗅覚を研ぎ澄ませれば確かに感じる甘い匂い。
コレがなんなのかは理解している。
匂いを感じ取れるのも自分の特殊な血からの過敏さである事も。
そしてこの、空腹にも似た飢えを煽るような甘い匂いの正体も。
それを探し求めるのは本能故と言うより自分の立場からだろう。
今来た道を逆戻りし、先程とは違う角へと入り込めば、更に入り組み細い道なりとなって歩くにも気をつかう。
そうして歩みを進めれば、どんどんとその甘い匂いが強まり、気をぬけば嗅覚から自分の神経を支配されそうにも感じて。
この感覚は初めてではないのだ。
今までだってあった。
どれもこれも血の飢えを擽る甘く芳醇な匂い。
なにかの弾みにうっかり理性を捨ててしまいそうになるような、そんな誘惑的な香り。
それでもそれなりにそれに対しての免疫も抑制力もあった。
あっさり飲まれて馬鹿をしたくなる様な事はなかった。
…はずなのに。
「お前が…魔女…か?」
この甘い匂いの元であるのだろう?と、問うまでもない。
視覚よりも嗅覚がそうだと確信を得ているのだから。
それでも敢えて問いてしまったのは視覚からの情報のせいであると言える
視界に捉えた姿は今にもこちらに危害を加えんとする様な恐ろしい生き物なんかではないのだ。
寧ろ真逆。
どうしてこんなところに?と駆け寄り、大丈夫だと背中のひと撫ででもしてやりたくなるような頼りなさの姿形はまだあどけない子供であるのだ。