Love Eater
不意によぎったのは掌の記憶。
今みたいな人間の掌じゃない。
肉球のついた狼の手。
その手でこの艶やかな黒髪を撫でた。
優しく撫で、慈しみ、抱き寄せながら素直な感情で六花の名前を呼んだ。
ただそれだけ。
童話の様に運命や奇跡を匂わせる要素なんてまるでない。
したのはありふれた些細な抱擁で。
それでも、確かに今までのソルトではする筈のない抱擁。
優しく甘やかしてほしい。
名前を呼んで触れてほしい。
ただ単純な呪いの解除法。
そんな意図に気が付いてしまえば余計に、
「っ……クッソ可愛い駆け引きふっかけてきてんじゃねえよ、クソガキ」
六花に対する愛着が強まらない筈がない。
ああ、今すぐ食らいつきてえ。
キスして抱きしめてこれでもかって欲求をぶつけたらどんなに恍惚とするだろうな。
そうは思っても感情任せにするわけにいかない。
人間ソルトでは優しくもできない。
今ここに居る事さえあり得てはいけない事なのだ。
そんな理性を無理矢理引き起こして息を吐くと、名残惜しくも静かに六花の身体からその身を離す。
悪いな六花。
そんな風に最後の抱擁とばかりに頭を一撫でし立ち上がるまでは実に男前であったのに。