part-time lover
着替えを終えてソファに腰掛けたタイミングで濡れた髪の彼が帰ってくる。
テーブルに置いたビールを口に運びながら、彼が私の隣に腰掛けるとお風呂上がりの熱気が伝わった。
「あ、忘れないうちに」
彼がジーンズのポケットからおもむろに財布を出すと、その中から紙幣を二枚取り出し私の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
いいセックスの対価としては十分すぎる金額な気がしたが遠慮なくカバンにしまい込む。
立ち上がり、シャツを羽織る彼の背中をぼんやり見つめながら残りの十数分世間話でもと思って当たり障りない話題を探す。
「…ケイさんて彼女とかいるんですか」
その言葉にすこし気まずそうに笑いながら彼が口を開いた。
「あ…彼女と言うか妻がいるんだよね、なんなら子供も。ごめん言ってなかったけど気にしたかな」
ああ、なるほどね。と自分の中でなぜか腑に落ちてしまった。
この余裕と謎の安心感はそこからくるのかと思ったから。
「いや、リスク管理はご自分でしていただけるなら全然気にならないですよ。
ていうかお若いのにお子さんもいるんですね、すごいな〜」
「大学卒業してすぐに子供ができて、順番は前後するんだけど当時付き合ってた人と結婚したんだよね。
子育ての方も落ち着いて、少し余裕ができたからこんなことして遊んでるだめな大人だよね〜」
へらっと笑いながらそう言う彼を見て吹き出してしまった。
「既婚者とこういうことするの初めてだったんでいい人生経験になりましたよ。
お時間そろそろですよね、行きますか?」
「うん、忘れ物ないようにね」
その言葉を合図に駅へ向かい、握手をしてその日は解散。
彼に言った通り、面白い経験をしたなと思ったら自然と帰り道の足取りが軽かった。
普段はそんなことしないけど、寝る前にお礼のメールを送った。
遊ぶには割と理想的な相手を見つけたと思えたし、新しい相手を見つける手間やリスクを省けたら一番だと思えたから。
返事が来ることは期待せずに目を瞑ると、すぐに眠りに落ちていった。