part-time lover


電気が消えると同時に、雅也くんの腕に包まれた。
私と同じ石鹸の香り、少し熱い吐息と体温、全部いつも通りのはずなのに、今日は何か違う気がする。

近いはずの人がすごく遠く感じる。

そんな私の心中も知らず、彼が私の顎に指をかけて優しくキスをした。

眠いと言っていたはずなのにキスは深くなる一方。

少し荒くなる雅也くんの呼吸を聞きながら、ケイさんとのセックスはどんな感じだっけと場に相応しくない考えが頭に浮かんだ。

このまま思考を止めて欲しい。

そんな思いを込めて彼の首に腕を回したものの、結局その後も全く情事に集中できず、彼と一緒に昇りつめることはできなかった。



「透子ちゃん、好き」

体を離した後、彼が一度軽くキスをして耳元でささやいた。
彼の言葉を聞いて心が締め付けられる思いがして、改めて彼にしがみつく。

「何?甘えたいの?」

「うん、このまま寝させて」

気持ちのやり場に困った時、一緒に寝てくれる人がいてよかったと思う。
残酷かもしれないけど。


「可愛い。おやすみ」


かすれた声が頭の上から聞こえたと思うと、間も無くして小さく寝息が聞こえてきた。

やっと1人自分の感情に向き合える時間ができた。

明日彼と解散したら、ゆっくり丁寧に返信をしよう。
いいことではないのかもしれないけど、可能であれば私ももう一度ケイさんとゆっくりお酒が飲みたい。
今まで自分の素性はろくに明かさずここまできたけど、この際全部腹を割って話してもいいだろう。
本来の私として接してもらっても構わないと思うほど、私もケイさんのことをもっと知りたいと思っていたことにこのタイミングで気付いてしまった。

動いてはいけない歯車が動き出す音が聞こえた気がするけど、私の気持ちのストッパーはすっかり外れてしまったようだ。

自分の気持ちに素直になったら少しだけ安心して、気づけば眠りに落ちていた。

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