part-time lover
ケイさんから連絡をもらってから4日後。
彼と初めて会った日が懐かしくなる8月頭の熱帯夜、私は表参道で彼の到着を待っていた。
いつも会う渋谷から一駅離れただけなのに、この街の洗練された雰囲気で少しだけ気が引き締まった。
もしかしたら、初めてケイさんと会った日よりも緊張しているのかもしれない。
落ち着け落ち着けと心の中で思っていても、忙しなく周りを見渡しては連絡が入ってないかケータイを確認してしまう。
金曜日のアフターシックスのデートの時間を嬉々と待つ他の女の子の中だから、キュッと唇をむすんだ私の姿はこの風景から浮いているだろう。
約束の時間まではあと2分。
早くきて欲しいようきて欲しくないような、変な心地だ。
青山通りをひっきりなしに行き交う車を眺めていると、後ろから聞き馴染みの良い低くて優しい声がした。
「お待たせしました」
声の方を振り向くと、懐かしい顔を見つけて少し泣きそうになる。
白シャツに黒い緩いシルエットのパンツ。
シンプルなスタイルだけど背の高い彼に似合っていた。
トレードマークのメガネは今日は外されていて、いつもよりも少しだけ若く見える。
今まで連絡を蔑ろにしてしまっていた申し訳なさから、思わず目を見ようとすると上目遣いになってしまう。
「お久しぶりです。今日はお誘いありがとうございます。
しばらくお返事できてなくてすみませんでした」
お礼とお詫びの意味を込めて軽く会釈をした。
「いやいや、そんな謝ることじゃないし。むしろ会ってくれてありがとう。元気そうでよかった」
かしこまった私を見て彼がフッと笑った。
どんな顔をして会えばいいのか不安だったけど、いつも通りのケイさんの穏やかな表情を見たら徐々に緊張が解けてきた。
おかげで口元の力も緩んで自然と微笑むことができている。
「とりあえずお店で落ち着いて話そうか。すぐそこのお店、予約しておいたので行こう」
「はい、ありがとうございます」
私の返答を合図に彼が歩き出した。
彼の隣にいるのは何だか気が引けて、半歩後ろをついていく。
初めて会った日、周りの目を気にしながらホテル街を歩いたことをふと思い出した。
もうあれも一年前になるのか。
青山通りから脇道に入り、少し歩くと小洒落たダイニングバーの前で彼が足を止めた。
「イタリアンのお店なんだけど、大丈夫だったかな?」
「はい。チーズ大好きなので嬉しいです」
今まで二人でお酒を飲んだことは多々あったものの、きちんと食事をするのは初めてなので少し緊張してしまう。