part-time lover


彼がドアを開け、アテンドされるがまま薄暗い店内に入った。

「いらっしゃいませ」

黒いシャツが似合う色白の女性店員が、落ち着いた声で迎え入れた。
小さめの店内には、金曜日ということもあり私たちの席以外ほとんど埋まっている。
重厚感のある色の濃いインテリアに、温かい色の照明が光って綺麗。


「予約した羽鳥です」

「お待ちしておりました。こちらのお席へどうぞ」


案内された低いカウンター席に腰を下ろした。
初めて聞いた彼の苗字の響きが新鮮で、頭の中でこだましている。

「お料理は選ぶの気を遣うかなと思って、軽めのコースで頼んじゃった。
苦手なものがあればオーダーの時に伝えるけど…」

さすが大人の対応。
ケイさんと話すことの方が大事な私にとっては、何を食べるかは大きな問題ではなかった。
ケイさんも同じ気持ちでいるんだろうか。

「いえ、苦手なものないので大丈夫です。
全部お任せしちゃってむしろすみません」

「それならよかった。飲み物はビールで平気?」

「はい」

スマートに店員を呼び、オーダーを済ますと、お酒が届くまでになんとなくぎこちない沈黙が流れた。

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