part-time lover
周りの人の会話が自然と耳に入ってくる。
後ろの席の女子会のメイントピックは、彼氏の浮気についてらしい。
この状況でその話題は、苦し紛れに笑うしかなかった。
「すごいタイムリーな話題だね」
彼も同様のことを思ったようだ。
隣に視線をやると、タオルで手を拭いながら眉を下げてひっそりと笑っていた。
「人間の耳ってすごいですね。これだけ賑やかな店内なのに、その中から無意識に自分に関係ある話題を聞き取っちゃうって」
自嘲気味に皮肉を言う私を見て、彼がおかしそうに小さく笑った。
「ほんとにね。彼女たちがお店を出るまで、顔が向けられないな」
悪いことをしている感覚はほとんどないんだろう。それは私も同じだった。
恐ろしいくらい、雅也くんに対する罪悪感はなかった。
むしろ久しぶりに父親に会ってホッとしているような安心感さえ覚えている。
2人して秘密を共有している感覚がくすぐったかった。