part-time lover
「陽さんは、なんでまた会いたいって言ってくれたんですか。
他にも探せば女の子ならすぐ見つかりそうなのに」
私の何も包み隠さない質問にも動じず、彼が指を口元に運んで考える素振りをした。
「なんでだろうね。透子ちゃんといる時間が自分の中ですごく癒しになってるなって気付いたからかな。
こんな風にお酒も会話も楽しくて、また会いたいなって思えるのは初めてだし、最初で最後かもなって思ったら音信不通で終わっちゃうのが嫌だったんだよね」
ここまでストレートに彼から思いを伝えられたのは初めてだ。
予想外の返答で言葉に詰まってしまった。
素直にその言葉を聞いて喜んでいることを言葉にしていいのかわからず、視線を落とすと、だんだん喉の奥の方が暑くなるのを感じて焦ってしまう。
「ごめんなさい…」
焦ってこちらの方を見ると、文脈で謝っているのではくて目を潤ませていることに対して謝っていることを察してくれたらしい。
「予想外のこと言われて、嬉しくなっちゃいました。
もっとドライに私と関わってるのかなって思ってたから」
そう言い終わると溜めていた涙が溢れてしまった。
「泣かないでよ〜。けどそこまで喜んでくれたならよかった。
周りから見たらたぶん上司に泣かされてる部下に見えるから、これで拭いて」
そう言うと鞄からティッシュを出して手渡す彼。
こんな時に笑わせてくれるのがありがたかった。
言いたいことはたくさんあるけど、うまく言葉にできないし、涙腺が緩んだタイミングでこれ以上素直になったら収集がつかなくなる気がしたので、大人しく彼の指示に従った。
深呼吸をして、呼吸を落ち着ける。
人前で泣いたのはいつぶりだろうか。
一人で泣くのよりも、ずっと気持ちが軽くなるのがわかった。
「すいません、感情的になっちゃって」
崩れたメイクを見られたくないので顔を背けてグラスに残ったビールをグッと飲み込む。
「いやいや、むしろ泣かせちゃってごめんね」
あまり悪気がなさそうに、笑いを含みながらそう答えた。
時刻は22時過ぎ。お互いグラスは空になったし、奥さんとお子さんが待っていることを考えたら解散にはちょうどいい時間だ。
「そろそろ行こうか。透子ちゃん、先に出ててくれる?」
「あ、でもお会計…」
「今更何言ってるの。気にしないで」
そう言って私の鞄を手渡し、強引に店の外へ出るよう促された。
ついついこの父性に甘えてしまって、多少の生意気を言っても可愛がってくれる彼との時間が好きだなと改めて感じた。