part-time lover
退室の時間ギリギリで服を着替えて、少し足早にホテルを出た。
人の多い坂を下りながら、さりげなく自然に、彼が手を繋いできた。
変な気持ちは起こしたくないのに、なぜかドキッとしてしまう。
「寝顔、かわいかったなー。
新生活に慣れるのも大変だし、疲れてたんだろうね」
先程の私のまぬけな様子を思い出しているんだろうか。
口元を緩めながら彼がそう呟く。
私の歩幅に合わせて歩いてくれているように、こちらが気を遣わないようフォローの言葉を入れてくれるのが大人だなと思った。
「本当にすいませんでした…でも確かに、疲れは溜まってたのかも」
社会人2年目と言えど、新しい仕事ばかりの毎日は確かにせわしなかった。
「そうだよね。一週間お疲れ様。
予定のない金曜があれば、美味しいお酒でも飲んでまたリフレッシュしようよ。
時間がある時連絡するから」
「ありがとうございます。また私の知らないビール、たくさん教えてください」
お礼を言ったところで、タイミングよく坂のふもとの駅の入り口まで到着した。
自然と絡ませた指が解ける。
「じゃあ、気をつけて。
ゆっくり休んでね」
「ケイさんも。おやすみなさい」
駅へ向かう階段を数段降りて、後ろを振り返ると彼がまだこちらの方を見つめていた。
なんだか歯がゆくなって、軽く手を振って改札へと足早に向かった。