part-time lover
再びメニューを広げて、気になるものをまたパイントで注文した。
今度は綺麗な金色の液体。
一口飲み込むとペールエールの爽やかな香りが体に染み渡った。
横に目をやると彼も黒いビールを美味しそうに飲み込んでいた。
唇についた泡を指で拭うと、ちょっと苦い顔をして彼が口を開く。
「さっきの話だけど、俺も全くそんな感じで前の彼女とは別れたよ。
相手が年上で、付き合い始めた頃はお互い大学生だったんだけど、相手が社会人になってから全然合わなくなっちゃって。
別れ方もなかなか壮絶だったし、自分も就活の年だったからしばらく彼女はいらないかなーと思ってたんだよね。」
爽やか好青年も見た目ではわからない苦労があるんだなーと内心冷静に彼のことを見ていた。
「そうだったんだ。
あんまり掘り下げるのも気がひけるけど、どんな別れ方したのか気になるな」
「あー…言うのも情けないんだけど、彼女が職場の上司と浮気してたのが判明して。
しかも不倫だったんだよ。
自分の感覚からしたら意味がわかんないし、やっぱり女の人って年上の男性に甘えたりしたいのかなーとか思ってすごいへこんだ。
まあ今思えば職場の先輩なんて新入社員からしたらカッコよく見えるのも、不倫も何かのきっかけで始まっちゃうことがあるってのもわからなくはないけど」
不倫というワードが出てきてドキッとした。
普通の感覚ならやはり嫌悪感を持つものなんだということを再認識して、心がざわついた。
けど最後の言葉が少し引っかかる。
「そんなことがあったんだね。大変だったね…
けど今その気持ちも頭ではわかるって随分と心が広いなって思った。
見当違いだったら謝るけど、雅也くん自身もそういう経験があるの?」
我ながら大胆な質問をするなと思いつつも、酔いに任せて投げつけてみた。
「いや、自分自身は大した恋愛経験もないからほんとにその気持ちは理解できないけど、周りの話を聞いてると結構ある話なんだなって思っただけ。
ただどんなきっかけで誰と恋愛関係になるかは予想がつかないし、自分が全く思ってなかった方向にことが運んじゃうって経験は俺もあるからさ。
時間が空いて冷静になったから言えることだけどね。少し視野が広がった今なら、もう少しちゃんと人と付き合えたりするのかなって自分なりに思い始めたところで。
だから今回思い切って、一緒に楽しく飲めそうな子を紹介してって頼んでみたんだ」
最後の一言は少し恥ずかしそうにはにかみながら、けどしっかりと私を見て話してくれた。
なんてまっすぐな人なんだろうと思った。
隣にいる自分が汚い人間のような気がして、少し心が苦しくなった。