part-time lover


カウンターに並んで座ったくらいの距離を保ち、駅に向かってゆっくり歩く。
初対面の男の人と、こんなに健全にデートをするのはいつぶりだろう。

触れられないもどかしさとか、次の約束への期待とか、自分らしくなく甘酸っぱい感情が湧いてきて笑ってしまう。

土曜の終電前の恵比寿駅は、色めき立った雰囲気が漂っていた。
今後の流れを伺う男女達の間を縫って歩いて、改札前に到着。
駅の蛍光灯の明るさが少し眩しい。

「改めて今日はありがとう。また次回も楽しみにしてるね」

改めてしっかり彼の顔を見て、お礼の言葉を伝えた。

「こちらこそ。気をつけて帰ってね」

笑顔で返す彼に一度お辞儀をしてから手を振った。

「真面目か」

そう言って笑う彼が少し可愛く思えた。

私もつられて笑いながら改札を抜ける。
改めて振り返ると、また彼と目が合った。

もう一度だけ手を振って、軽い足取りでエスカレーターに乗った。


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