part-time lover
「ごめんお待たせ!」
到着したことだけメッセージを入れようかと思ったところで、耳馴染みの良い声が聞こえた。
顔を上げると待ち合わせの相手がこちらに近づいてきた。
「あ、お疲れ様!全然、今着いたところだから大丈夫」
スーツ姿も映えるなと見惚れそうになったけど、なんとか自制して言葉を発した。
うっすらと額にかいた汗も爽やかさにしてしまうところがさすがと思った。
「暑いね〜。ビール日和になってよかった。
それじゃお店に向かおうか」
そう言うと、軽く私の背中に触れて彼がお店まで案内を始めた。
少し触れられただけなのになんだか顔が熱くなる。
「仕事帰りだとやっぱり私服と雰囲気違うね。
この間よりも大人っぽく見える」
挨拶の次の会話で見た目に触れるあたり、やっぱりこの人は女性に慣れているんだろう。
けど、嫌な印象は感じなかった。
「そうかな。私服通勤だから何着てもいいんだけど、仕事するときはこういう服装がなんだか落ち着くんだよね。
雅也くんこそ、スタイルいいからスーツ似合うね」
「あんまり褒められ慣れてないから照れるな。
ただこれだけ暑いと私服通勤が羨ましいよ」
額の汗を手で拭いながら彼がそう答えた。
人の波に流されないように、歩幅を合わせて歩いてくれる彼の優しさが嬉しかった。