part-time lover
人通りが少ない脇道にそれて少し歩き、一見通り過ぎてしまいそうなマンションの前で足を止めた。
下に視線をやると、小さな看板が置かれている。
「お疲れ様。
ここは先輩に紹介されて何回か来たことあるんだけど、落ちついてる感じのバーだから二軒目にいいかと思って。
階段だから気をつけて」
雅也くんのご配慮もあって、10分程度歩いたら少し酔いが落ち着いていた。
「わー、隠れ家ってかんじでいいね。いこいこ」
一度手を離し、暗い階段を登る。少し寂しいなと思ってしまう。
階段を蹴るヒールの音が軽快に響いた。
最上階まで登りきり、彼が重めの木のドアを開けると、店内の暗い照明に包まれて心が落ち着く気がした。
カウンター席しかない、小さめのお店。
中には先客のカップルが1組だけ。
「いらっしゃいませ」
渋いマスターに案内され、年季の入った皮のスツールに腰をかけた。