part-time lover
階段を上がって駅から出ると、彼が大きい傘を開いて中に入れてくれた。
「ありがとう」
「あんまり雨の中歩くのもしんどいし、ここから近いところで大丈夫かな?」
「うん。お任せします」
「了解」
中華街の門をくぐり、独特の異国情緒に気分が高まると、少し歩いて彼が足を止めた。
「ここです!」
「近っ!ほんとにすぐだね!」
「あんまり歩くと濡れちゃうかと思って。
お先にどうぞ」
自動ドアを抜けるとさすが土曜のランチタイムなだけあって店内は賑わっていた。
案内された席に腰を下ろす。
かしこまりすぎず、カジュアルすぎず程よく心地のいい雰囲気。
「素晴らしいアテンドありがとう。さすが地元民。
どれも美味しそうだね」
メニューをパラパラめくりながら目移りしてしまう。
「いやいや、一方的に色々決めちゃったけど大丈夫だった?」
「私優柔不断だから、それの方が助かる」
正直何が食べたいか、どのお店に行きたいかと男性から訊かれるのは得意でなかった。
「それならよかった。とりあえずビール飲みながら何食べるか考えよ」
「それ最高」
とりあえず生ビールで乾杯して喉を潤した。
休みの日の昼から飲むビールってなんでこんなに美味しいんだろう。
「あー休みだね〜」
ごくっと喉を鳴らした後に、彼が幸せそうに呟いたのを見て笑ってしまった。
「雅也くんておいしそうに飲むし食べるよね」
「そうかな?単純だから分かりやすいのかも」
ちょっと恥ずかしそうにして、彼がメニューの方に再び視線を落とした。