稲荷と神の縁結び
そして神社に到着したのは、夜の十時過ぎ。
そろそろ準備を終わらせないといけないのに……私は今、会館の奥の部屋で頭を悩ませている。


「あの、お母さん………」

「何?こはる」

私は準備に追われているお母さんに、恐る恐る話しかける。

「袴………緋色じゃないとダメ………?」

この赤の…巫女装束である緋色の袴。
そろそろ履くのがキツい年齢になってきた。


「一応、うちでは結婚するまで緋色っていう決まりはあるけどねぇ」

「もう私二十七ですよ……もうとっくに定年の年齢ですよ……」

もっとも一番厳しいと言われている伊勢神宮なんか…定年は二十三歳だという。
國前神社も三十前にはみんな辞めていく。


「まぁ…でも来年には………ね。そうなってもらえるとうれしいけど、ね」

そう言うと、はぁっとため息をつくお母さん。
まぁつまり……

「結婚しろってことか……」

はぁっと私もお母さんと同じ大きさのため息をつく。
まさかこの人にまで言われるとは。
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