稲荷と神の縁結び
私ははぁ、とため息まじりで問いかける
「私が社長に嫁いだとして、向こう側のメリットは?
こんな嫁入り道具すら満足に買えなさそうな家から、嫁に迎えるメリットは何でしょうかねぇ?」

すると洋ちゃんは目を反らして「ほら…そこに愛があれば……」と半ばヤケクソに呟いた。

愛があっても金はどうにもならんだろう。それはみんなが思っていることなので、言葉には出さないことにした。



*****
しばらく夜食のおにぎりを摘まんでいると、ガラッと引戸が開きうちのお父さんが顔を覗かせる。「そろそろ準備を……」とのことで、みんな定位置に向かう。
圭ちゃんとお父さんやら(お父さん曰く)年寄り組は拝殿内で、雅楽の奉奏やら祝詞の奏上やらの準備に。私とちかは、新年が明けると甘酒を振る舞う係りなので、会館内での準備に追われている。
甘酒をコップに注いでいると‐遠くから笙の音が聞こえてくる。

小さい頃は無理矢理教えられて、大嫌いな音だったけど、今は不思議と居心地が良く…好きな音色に変わっていた。きっとこれはDNAと言うものが成せる技だと思っている。
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