稲荷と神の縁結び
「こはちゃん、そろそろ行こっか」

ちかが酒を注ぐ手を止めて、お盆を持ち準備を始めた。

ふと時計を見ると、時刻はもうすぐ深夜零時。もう年越しの瞬間が近い。
私も甘酒を乗せたお盆を持って、二人で会館を出て境内に向かうことにした。


会館のドアを開けると‐遠くの参道には人、人、人。みんな年越しをここで向かえようと、集まった人達だ。

私はこの人達の波を見ていると、到底『時代錯誤』という言葉で、投げ出すのは間違っていると思ってしまう。
清貴さんにも、前に「そんな人生でいいのか?」と問われたこともあるが…私達はここで産まれた宿命としても、この光景を守りたいと思ってしまう。
例え普段は人が集まらない場所であろうと……この地域で暮らす人々の為に、幸せを願いたいと、そう思ってしまうのだ。


歩いている最中、鐘が鳴る音が聞こえて‐年が明けたのだと気付く。
私はちかと目を合わせて微笑むと、少し早足で人の波に向かって歩いて行った。
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