稲荷と神の縁結び
呆気に取られていると、二人が連れて帰っているのが見えた。
境内はそれ以上の騒ぎは聞こえないので、何とか他の人には被害は無かったらしい。


「こはる」

不意に呼ばれてはっと我に返る。
いや……この人は被害を大分被っている。


「清貴さん大丈夫ですか?!」
私はあわてて清貴さんに駆け寄った。顔を見上げると、うっすらと頬に引っ掻き傷のようなものがあるのがわかる。

「あぁ、別に大したことはない」

「いや、でも……」

傷を確かめようと、頬に向かって手を伸ばす。
でも清貴さんは‐その手をそっと握った。


「こはるに何もなくて良かった……」

本当に安堵したような声と、ふんわりとした柔らかな笑みに…再び動悸が激しくなる。
この人、こんな柔らかく笑う人だっけか。


「えっと……何で清貴さんが………」

私はその動悸を隠すように、パッと手を離して視線を反らす。
そもそも本来なら、清貴さんがここに居る筈がない。


「あぁ、これ差し入れ」
そう言って清貴さんは、紙袋を差し出した。


「親のとこ行ったら貰ってな、こはるに」

紙袋の中には‐ひなやの最中だ。
しかも、最高級クラス一箱十個入り三千円。


「え……本当にいいんですか?!」

「あぁ、食べな。 あとこれも」

そう言うともう一つの紙袋を差し出した。
袋の中は‐栄養ドリンクやらカイロやら。
正直助かる差し入れだ。
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