稲荷と神の縁結び
「やっぱり親父も、あの店は知らないみたいだな」
馨様は実の息子にですら教えていなかったのか。

「秘密にしといてくださいね?」

「あぁ、勿論」

清貴さんはもう一度柔らかく笑って…頭にポンと手を置いた。


「じゃ、俺行くから」

「え?圭ちゃん呼びま……」

「いいよ、用事済んだし帰る」

そんなせっかくここまで来たのに…。


「一個忘れてた。今年もよろしくな」
あぁ、そういえば年が明けて初めて会うのだった。


「はい、よろしくお願いします!」

そう言うと、清貴さんはクシュッと頭を撫でる。
そしてさっさと背を向けて、鳥居の方向に歩いて行った。
その後ろ姿を見ていると‐なんとなく、寂しさが込み上げてくる。
会えて嬉しい気持ちと、寂しい気持ち。


「ちょっとこはちゃん!」

私の所に、入れ替えで洋ちゃんが走ってきた。

「何なのあの人!!」
やばい…洋ちゃんの目は完全に輝いている。


「こはちゃん!あれはいい物件じゃん!」

物件…って彼はマンションなのかと心で突っ込む。そもそも洋ちゃんは、つい数時間ほど前の発言を忘れてしまったのだろうか。

私は敢えて口に出さないことにして、大きくため息をついて……どう洋ちゃんをあしらえばいいのかについて考え始めていた。
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