稲荷と神の縁結び
*****

それから二時間後。
買い物を済ませた私達は、老舗のすき焼き屋に居た。

旅館のような広い日本家屋風の建物の、片隅にある畳のテーブル個室席。
そして私の目の前には、すっからかんになったすき焼きの鍋。


「お肉の方はいかがでしたでしょうか?」
着物を着た仲居さんが、せっせと肉が置かれていた皿を片付けてながら聞いた。

「めちゃくちゃ美味しかったです!」

私はさっきのお肉の味を反芻する。
一口噛むと‐スッと裂けるように噛み切れるほど柔らかい牛肉。
それを甘辛いタレで煮て、濃厚な卵を絡めていて食べた味は…生きてきた中で一番おいしかったと言ってもいいのではないだろうか。


「最後にデザートをお持ちいたしますので、呼び鈴でお呼びください」
そう言い残して、仲居さんは部屋から出ていった。


「満足したか?こはる」

「はい!もう」
これを満足せずに、何を満足だと言うのか。

「こんな取り分けてくれるサービス初めてですよ!」
仲居さんが作ってくれて…取り分けてくれるサービスなんぞ初めてだ。


「毎週ここでいいですよ」

「………俺を破産させる気か」

いや、あなた稼いでるじゃないですか。
その言葉はぐっと喉の奥の方に押し込めてみる。
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