稲荷と神の縁結び
一瞬目を見開くが…さすがに失礼だと思い直し、ぐっと表情を戻す。
清貴さんはずっと黙々と食べているので、気づいてなさそうだ。良かった。


「初めて家で、出来立ての朝食を食べた気がする」

「初めてって……」

「俺の母親が作ると思うかぁ?」

そう言われて清様の奥様‐滋子(しげこ)様のことを思い浮かべる。

一応呉服屋の奥様であるが…正直着物姿を見たことがない。いつも目にするのはブランドのスーツ姿に、真っ赤なルージュが印象的なメイク。それに加え派手なネイルに、指と腕にはジャラジャラとアクセサリーをこれ見よがしに着けていて……

(『別名:クレオパトラ』だもんなぁ……)

恐ろしいぐらいスタイルは良いし、美しい方だが………家庭的という言葉とは程遠い。


「コメントは控えさせていただきます……」

あのネイルとアクセサリーで台所に立つ姿は…想像できるはずないだろう。


「でも、お手伝いさんとか居ましたよね?」

「家政婦は居たけど、通いだから作りおいてくれるだけだったな。昔から。
それに母親は米よりパンやパスタが好きだったんだよ。和食は滅多に出ない」

どうや滋子様はとことん『和』とは程遠い人らしい。
< 60 / 233 >

この作品をシェア

pagetop