稲荷と神の縁結び
それでも許されているのは、清様がベタ惚れで滋子様に甘いからだろう。


「じゃ、ごちそうさま。先出るな」
気付けば清貴さんは完食。
立ち上がると、ネクタイを締めている。

「はい、私も着替えたら出ますね」

私はお皿を回収して食洗機にセットする。
ボタンを押すとモーター音が鳴って食洗機が動き出した。

やっぱりこれは相当便利だな。
実家でも導入してみよう。


「じゃあ先に行ってきま…」

「清貴さん、ネクタイ曲がってますよ」

めちゃくちゃ結び目が右に曲がっていたので、私は清貴さんの前に立ってぐいぐいと直す。

「よし、これで大丈夫です」

「……夫婦みたいだな」

そう言われてドキンと心臓が波打つ。
仮にも昨日はあんなことがあったばかりなのだ……。


「奥さん、いってらっしゃいのご挨拶は?」
からかうように清貴さんは‐自分の頬を人差し指で突っつく。


(ええっと………)

これは……完全に遊ばれているな。
頭の中で『あしらう方法』を検索する。脳内ひっくり返して出した答えは‐‐


『むぎゅっ』
頬を掴んでつねることにした。

よし、してやったり。
苦笑いを浮かべる清貴さんに、晴れ晴れとした笑顔で「行ってらっしゃいませ」と言って見送った。
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