稲荷と神の縁結び
その日の夜。
八時には帰宅するという清貴さんに合わせて、私は夕食作りをしていた。
大根の入った鍋をかき混ぜながら‐あの言葉の意味を考える。

『彩馨のバイヤーじゃなくて…』

ということは、彩馨側からバイヤーの話が来ていたということ?
彩馨のバイヤーは、かおるやの発注数にも影響がある重大なポジションだ。グループ全体の今年の傾向も、バイヤーによって決まってしまう。そんなみんなが憧れるポジション。


……いやいや。彩馨側とはここ数年仕事の話はしたことがないし。
ちょくちょく話をする彩馨のスタッフからも、そんな話は聞いたことがない。


‐第一、それはいつの話だ?

ってそういえば、ずっと頭にひっかかっていたことがある。
あの時がそうだったなら…それならあれは滋子さんは探ろうとして…


「こはる、帰ったぞ」

清貴さんの声に我に返る。
気づかぬうちに帰宅していたらしい。


「おかえりなさい」
私はそれだけ言うと、せっせとお皿におかずを盛る。

「おっ、鰤の照り焼きか。うまそうだ」
清貴さんはネクタイを緩めながら、私の盛る様子を見つめている。

「煮物も大根としいた…………ん?」

反応せずに淡々と料理を並べているが‐視線を遮られるように、目の前に清貴さんの顔がくる。
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