偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「忘れ物だよ、那夕子」
花束を手に無理矢理持たされた。わたしはそれを優しく両手で抱きしめ、顔を俯ける。
尊さんの荒い息づかいが聞こえる。ここまで走ってきてくれたのだろう。
うれしいと思う気持ちと、謝らなくてはという気持ちが胸に渦巻く。しかしそれ以上に尊さんがお見合いをするかもしれないという事実の方が、今の自分には重大なことだ。
「美人の夜のひとり歩きは――」
「お見合い、するんですか?」
尊さんに最後まで言わせず、勢いに任せて問いただす。彼の顔を見ると、驚いたように綺麗な形の目を見開いたあと、優しくほほ笑んだ。
「しない。那夕子がいるのに、するわけない」
「でもっ――っん……」
今度はわたしの方が最後まで言葉を続けられなかった。
彼に唇を奪われて。
ぎゅっと目を閉じると、彼の唇の感触がより鮮明に感じ取れる。
優しく重なった唇が離れると、そのまま彼の腕に抱きしめられた。
「尊さん……」
「ごめん、那夕子に嫌な思いをさせたのは謝る。でも、僕が見合いを勧められているのを見て、どう思った? 嫌だった?」
今更ごまかしても仕方ない。これまでの態度でバレバレなのだから。
わたしは尊さんの腕の中で、小さくうなずいた。
すると彼の腕に力がこもる。
「ごめん。那夕子が嫌な思いをしているのに、僕はいま凄く幸せな気持ちだ」
思わず眉間に皺を寄せて、彼を睨んだ。けれど尊さんは言葉通り、とてもうれしそうにしている。