偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
三十万平方メートルもある庭園には大きな池があり、その周りにはソメイヨシノが植えられている。空を埋め尽くすかの如くに咲き誇る桜の花は圧巻で、言葉が出ないほどだ。
それに加えて水面に映る桜の上にひらひらと舞う、淡いピンクの花びらはため息が出るほど美しい。
尊さんがおばあ様の車いすを押し、その横を桜を愛でながらゆっくりと歩く。
「ここにはね、主人とよく来ていたのよ。いつもは忙しくしていたけれど、この時期だけはちゃんと休みを取ってくれていたの。だから桜もこの季節も、わたしにとっては特別なの」
おばあ様は、桜を見ながら顔を綻ばせている。すごくリラックスしていて、幸せそうで、今日ここに連れてくることができてよかったと思う。
「こうやって、孫と孫のお嫁さんとまた訪れることができるなんて。わたくしはなんて幸せものかしら!」
わたしの方に顔を向けて声を弾ませる。
こんなふうに言われると、かりそめの妻としては、罪悪感を持たないわけではないけれど、喜んでもらえているのでこれはこれでよかったと、自分の中で折り合いをつけた。
「わたしも、一緒にお花見できてうれしいです」
やはり思った通り、おばあ様を外に連れ出してよかった。はつらつとしてらして、自分まで元気をもらえるようだ。