偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
しかし尊さんはまったくピンときていなさそうだ。
「そんな人いた? 女性?」
さっきまでわたしの目の前にいたのだから、絶対彼の視界に入っていたはずだ。それなのに気がついていないなんて……。
すると尊さんが、髪をかき上げながら少し恥ずかしそうにした。
「きっと、那夕子以外が目に入ってないんだと思う。今日は本当にずっと、君ばかりを目で追ってしまっているから」
「そ、そう……ですか」
たしかさっき公園でも似たようなことを言われた気がする。うれしいけれど、いたたまれないような恥ずかしさも同時に覚えた。
「ちょっと、舞い上がり過ぎなのは自覚してるよ。でも、今日ぐらいは許して」
「許すもなにも……わたしだって、十分舞い上がっていますから」
こんなふうに彼に思われて、なんでもないフリなんかできない。
わたしだって、今日ふたりで過ごすことができて、とてもうれしいのだ。
尊さんが、わたしの手をぎゅっと握った。
「部屋に戻ろう。僕は今日誰にも邪魔されずに、君のことを堪能したい」
た、堪能!?
その単語に思わず反応してしまう。頬の赤みが益々濃くなり、耳まで熱い。