偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「ああ、そういう意味ではなかったのだけど。那夕子がご所望なら、僕はやぶさかでもないよ」
クスクスと肩を揺らす尊さん。ちょっと意地悪な彼が顔を出した。
「ご所望なんて、していません!」
「そうか、それは残念」
ますます笑みを深めた尊さんは、立ち上がりわたしの手を握り直すと、部屋へと戻る廊下を歩き出した。
その間、何度も目が合う。
彼がわたしを見て、わたしもまた彼を見ている。
部屋までの短い時間だったけれど、この上ないほどの幸せを感じたのだった。