偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
やっぱり彼は大人だ。きっとわたしの緊張を和らげるために用意してくれていたに違いない。
さっき『舞い上がりすぎ』なんて言っていたけれど、そんなことは微塵も感じられない。
彼はわたしの手を引いてソファに座らせると、距離を開けずに隣に座った。ソファがたわみ、体が触れる。
「新潟から取り寄せているお酒だ。どうぞ」
尊さんが徳利を持ったので、わたしは慌てて杯を差し出した。流れるように透明な液体が注がれ、杯の中で波紋が浮かんだ。
彼はさっと自分の杯にも、お酒を注ぎ手に取り少し掲げるようにした。
「では、初めての旅行に」
「乾杯」
笑顔の尊さんにつられて、わたしも頬を緩めた。
一口飲むと、口の中で冷酒のキリリとした味わいが広がる。
「すっきりしていて、とても飲みやすいです」
「よかった。ここに来たらいつも頼む僕の好きなお酒なんだ。那夕子が気に入ってくれたなら、ますます好きになりそうだ。個人的に取り寄せようかな」
「ぶっ……ごほっ、ごほっ」
い、いきなりなにを言い出すの!?
時々……いや、結構な頻度でこういう発言をして、わたしの反応を見て面白がるのはほどほどにしてほしい。
「大丈夫? ゆっくり飲まないと」
「はい、すみません」
おしぼりで濡れた手を、尊さんが丁寧に拭いてくれた。