偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「尊さんは、大きいですね」
「ん? どういう意味?」
「懐も、心も、こうやってわたしを撫でてくれる手も。なにもかも大きい」
彼は少し目を開いて、驚いた顔をした。その後、はにかんだような笑顔を見せる。
「それは、あなたの前だからだよ。少しでも気を引きたい――ただの下心の現れ」
「そ、それは……」
それまで忘れていたのに、急にまた寝室の方が気になり始めた。そしてその心の機微を尊さんは敏感に察知する。
「ふふっ、ごめん。また、意識させてしまったみたいだね。でも、安心して」
彼がわたしの手の平を優しく撫でる。
「今日は、君を抱かない」
彼の言葉にわたしははじかれたように、顔を上げた。
え、なんで?
さっきまでは、そういう状況になったらどうしようかと悩んでいた。けれど、彼の言葉を聞いて不安になってしまう。
わたしとはしたくないってこと……だろうか。たしかに、女性的な魅力があるかどうかと言われたら自信は無い。けれど、好きな人だから勇気をもって踏み込もうと思っていた。なのに……。
ぐるぐるとあれこれと頭の中を巡らせている間、わたしは完全に黙り込んだままだった。