偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「那夕子、聞いてる?」

「あ、はい……」

 名前を呼ばれてハッと我に返る。けれど顔はひきつったままだ。

 そんなわたしを見て、尊さんは眉間に皺を寄せた。

「どうしてそんな顔をしているの?」

 どうしてって……拒否されたのに、ニコニコなんてできないもの。

 彼にどう答えるべきなのかも、よくわからない。不安を隠せないわたしの頬に、彼の手が伸びてきてそっとさすった。

「なにか、勘違いしているみたいだけど」

「どういう意味ですか?」

 言葉の通りに受け取ったけれど、違う意味があるということ?

「僕が君を抱かないと言ったのは、今のこの状況が僕の意志によって作られたものではないからだ」

 余計に意味がわからなくなってしまった。どういうことなのだろうか。

「ちゃんと説明してもらってもいいですか?」

 彼に先を促すと、ゆっくりとうなずいて答えてくれた。

「図らずして今日この部屋に泊まることになったのは、祖母の策略だよね。大変ありがたいけれど、君との初めては、きちんと僕が準備した最高の環境で迎えたいんだ」

 だ、抱くとか……!

 ストレートに言われると、それはそれで恥ずかしい。
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