偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

「唇は許して欲しい」

 吐息混じりの熱い声に、胸がドキンと大きくはねた。

 言葉にできないわたしが、ゆっくりとうなずく。

 彼は返事を待っていたかのように、抱きしめていた腕の力を緩めた。

 代わりに、わたしを見つめる視線に力を込める。

 大きな手がわたしの後頭部を引き寄せた。

 ゆっくりと重なる唇。一度離れて、もう一度。次は少し強めに、食むようなキス。

 角度を変えて繰り返されるキスは、情熱的で体を一瞬にして熱くした。

 緊張なんて瞬時に飛んでいってしまう。彼のキスを返すのに精一杯だったわたしは、気がつけば彼とのキスに夢中になっていた。

 どのくらいの時間だろうか。やがてふたりの唇が離れる。

 彼がわたしの顔をのぞき込んで、すぐに顔を彼の胸に押しつけるようにして強く抱きしめた。

「すでにちょっと、意地を張ったことを後悔してる。今日の君は、可愛すぎだ」

 ちょっと拗ねたような言い方が、なんだかとてもおかしくて、わたしは彼の胸の中でクスクスと笑った。

 そんな――少し情熱的で、そしておだやかな夜が過ぎていった。

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