偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
シンデレラは時計を落とす
【シンデレラは時計を落とす】
わたしを出迎えたのは、立派な花器に生けられた、背丈をゆうに越えるほどの大きな生け花、まぶしく輝くシャンデリア、ふかふかの絨毯。
そしてまばゆいほどに着飾った男女。
そこは今までのわたしが知らない世界が広がっていた。
こんなパーティが本当にあるんだ。
小説や漫画やテレビの中だけだと思っていた。けれど目の前に広がる光景は間違いなく現実で。
「那夕子、そんなに緊張しないでも平気だよ。ただのお誕生会なんだからね」
小学生が近所の子を集めてやるパーティみたいに言わないで欲しい。
尊さんが〝お誕生会〟といったのは、間違いではない。都内でも有数の外資系ホテルで行われているのは、日本の経済界でもっとも力のある人物の古希を祝う会だ。
尊さんもずいぶんお世話になっている方らしい。
最初は『知り合いのお祝い』とだけ聞いて、ホイホイついてきたのだけれど、まさかそんな偉い人の大規模なパーティだとは思ってもいなかった。
なぜもっとちゃんと確認しなかったの⁉
尊さんと出会って、こう思ったのは一度や二度ではない。自分の学習能力のなさにがっかりするとともに、尊さんもわざとそういうふうに仕向けているのではないかと思えてきた。
「緊張しないなんて無理です。どうして最初から教えてくれなかったんですか」
泣き言をいうわたしを、尊さんはクスクスと笑った。わたしにとっては全然笑いごとじゃないのに。
「伝えたらきっと、ずーっと緊張していただろう? 那夕子の緊張を最小限に抑えようと思ってのことだったんだけど。ごめんね」
謝っているけれど、悪いとは思っていないだろう。
確かに彼の言うことも一理あるので、最終的には納得してしまった。