偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「お詫びと言っては何だけど――」
そこまで言うと、彼は急にわたしの耳元に顔を寄せてきた。そしてわたしにだけ聞こえる声で、ささやく。
「このホテルに部屋を取ってる。パーティが終わった後、先日の約束を果たしたいんだけど」
ぼっと火がついたように顔が赤くなった。
この間の約束って、温泉で言っていた『最初の夜』ということだろう。
そ、そんな急に? いや、二週間も経っているのだから急なわけではない。けれどこれこそ、事前にお知らせしておいて欲しい。
心臓がばくばくと大きな音を立てる。それをまた彼が煽る。
「楽しみだね。つまらない仕事はさっさと終えて、早く君とふたりっきりになりたいな」
わたしの方を見て、ちょっと意地悪な笑みを浮かべていた。軽く睨んでみたけれど、それさえも楽しんでいるように見える。
「さあ、行こう」
腕を差し出されたわたしは、気を取り直すようにコホンと小さく咳をして彼の腕に手を添え歩き出した。
経験したことのないパーティ。正直場違いだと思う。けれど今は尊さんのパートナーとして出席しているのだ。
今日の彼も素敵だった。長身で均整の取れた彼は祝いの席とあってタキシードを身につけている。深い海の色を思わせるネイビーのタキシードは、男性は黒のスーツが多い中で、余計に彼の洗練された容姿を際立たせていた。
いつもよりもきっちりと整えた髪も、普段の彼とは違って見えてドキドキしてしまう。