偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
つかの間の幸せ
【つかの間の幸せ】
とある高級レジデンスの一室。
殺風景に見えるけれど、洗練された家具。手入れの行き届いた生き生きとした観葉植物。
メゾネットタイプの豪華な造りで、リビングが吹き抜けになっているので、マンションの一室とは思えないほど開放感に溢れている。
ここは尊さん所有の部屋だ。彼は基本的には川久保邸に住んでいるけれど、仕事が遅くなったりひとりになりたいときに、こちらのマンションを使うそうだ。
ほぼ寝に帰るだけ……と言っていたけれど、それだけのための部屋としてはもったいない。
普段は家事代行サービスを使っていて、部屋の掃除や洗濯はすべてまかせていると言っていた。
そしてわたしは今、彼のこの部屋で遅く帰宅した彼に夜食を作っていた。
ご飯にのせているのは、錦糸卵に細く切ったたくあん、椎茸と鶏肉。そこに食べる直前に鶏だしをかけて食べる鶏飯を作った。鹿児島出身の母の直伝の味だ。
尊さんの口に合えばいいのだけれど……。
「こんなに贅沢なキッチンで調理道具も揃っているのに、料理を一切しないなんてまさに宝の持ち腐れですよ」
仕上げにネギをパラパラとかけていると、背後から尊さんの手が伸びてきた。そして背後から腰に手を回して抱きしめてきた。
「どうして? 那夕子がこうやって料理を作ってくれるから、まったくもって無駄でじゃないよね?」
彼は身をかがめて、わたしの耳にキスしてクスクスと笑う。すごく甘い時間。