偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「期待してくださっているようですが、すごく簡単なもので申し訳ないです。でも、自信作ですから、召し上がってください」
彼の腕の中でくるっと向きをかえる。
間近にある尊さんの顔には疲れが見えた。
ここのところずっと川久保邸ではなく、こちらのマンションで寝泊まりしている。わたしがお世話になるようになってからは、極力一緒に過ごすために川久保邸で生活をしてくれていた。
けれどそれができないくらい、忙しいらしい。
だからこそわたしがこうやって、マンションに来たのだけれど。
わたしが彼をダイニングに押しやると、笑いながらテーブルに座ってくれた。
彼の前に準備した鶏飯を置く。尊さんは手を合わせてから食べ始めた。
どうかな……口に合うといいんだけど。
心配で思わずじっと見てしまう。
彼はレンゲで一口噛みしめるようにして食べると、口角を上げた。それだけで合格点だと分かる。
「美味しいよ。出汁がやさしい味で、いくらでも食べられそうだ」
「よかった。ゆっくり召し上がってくださいね」
わたしも向かいに座って、彼が食事するのを見ていた。
「すごく忙しそうですね。いつもこんな感じなんですか?」
ここ最近が忙しそうにしているのは知っていた。けれど、こんなに疲れた様子を見たのは初めてだ。