偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
翔太は自身を睨みつけているわたしを見て、声を出して笑った。
「縛りつけるだなんて人聞きが悪いな。俺のことを本当に理解してくれるのは那夕子だけだ。だからお前には、危害を加えていないだろう?」
たしかにわたしが直接なにかをされたわけじゃない。けれど一番傷つく方法を選んでいる。
今にも泣き出しそうなわたしを見て、とうとうおなかを抱えて笑い出した。
――悔しい、だけど。
「どうしたら、川久保製薬との関係を元に戻してくれるの?」
「お? やっぱり話せばわかると思っていたんだ。俺の望みはただひとつ。お前があの男と別れることだ。俺を裏切ったお前が幸せになることは許さない」
「そんな……!」
どうしてそこまでわたしに執着するのだろうか。あのころの翔太は婚約が成立して、わたしのことを邪魔に思っていたはずだ。裏切ったのは自分なのに。
目の前に座る男の顔を見る。醜悪に笑うその顔は、わたしが泣き出すのを今か今かと待ち構えているようだった。
悔しい。こんな男と今までの人生を共にした自分を恥じた。いつからこんなふうになってしまったのだろうか。少なくとも彼といて楽しかった時間があったはずなのに、今となってはそれさえも思い出せない。
「さあ、どうする?」
わたしがどういう答えを出すか、わかって言っている。そして彼の思っている通り、わたしは尊さんと離れることでしか、彼を守ることができないのだ。
「あなたの言いたいことはわかった。わたしは尊さんとお別れします。でもあなたの元には戻らない。川久保製薬には今の時点でもダメージを与えているはずです。今後のことを考えると、あなたにだって不利になることが出てくるのでは?」
翔太は計算高い男だ。川久保製薬との繋がりを完全に切るのは、彼とて惜しいはず。
翔太が一瞬眉間に皺を寄せたが、ニヤリと笑った。