偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
「まあ、好きにすればいい。どうせ行き場がなくなったら、俺のところに戻りたくなるさ」
いったいどこからその自信が湧いてくるのだろう。彼の中でわたしはまだ彼の所有物なのかもしれない。
言いたいことはあるけれど、これ以上話をしても無駄だ。
「少し時間をちょうだい」
感情を押し殺して小さく、けれどはっきりと言ったわたしは、痛む胸を必死で押さえつけ、絶対にこの男の前では泣くまいと……その思いだけで自分を保っていた。
「いいだろう。まあ、遅くなればなるほど、あいつへのダメージが大きくなるだけだからな」
これ以上はなにも聞きたくない。なにも話したくない。
「じゃあ、これでも忙しい身なんでね。どこの製薬会社も俺には色々期待しているみたいだから」
最後までわたしに脅しをかけてくる。
彼が立ち上がる。わたしは彼のほうを見ないように顔をうつむけていた。しかし翔太はそれを許さない。
「……っ、いやっ」
顎を持たれ、無理矢理上を向かされる。
「そういう頑なな態度が、むかつくんだよ」
吐き捨てるようにそう言うと、彼はカフェテリアを出て行った。
指先が震える。恐怖なのか怒りなのか、その両方なのか。悔しくて、腹立たしくて、自分の中にあるありとあらゆる負の感情が体中を駆け巡る。