偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~
そしてなによりも……尊さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
少し強引ではあったけれど、尊さんの行動にはいつもわたしへの気持ちが籠もっていた。わたしを人として尊敬してくれて、恋人として愛してくれた。
だからこんなに早く、もう一度人を好きになることができたし、心から笑えるようになった。
彼が様々な思いを持って、代々受け継がれてきた会社とその理念を大切にしていたことを知っている。そして彼の会社が生み出すもので世界中の困っている人たちが、救われていることも。
わかっている……だからこそ、そんな自分の気持ちを押し通すことができない。
彼に事実を告げれば、きっと『気にしなくていい』と言ってくれるだろう。そして今みたいにひとりで頑張るのだ。
なにも見ない、知らないフリをして彼に甘えていればいいのかもしれない。
だけどわたしは、それはできない。そうしてしまったら、きっと尊さんが好きだと言ってくれた自分ではなくなるだろうから。
わたしは心を決めた。
スマートフォンをバッグから取り出して、画面に尊さんの番号を表示させる。
連絡をして呼び出す。そして――。
自分が何をすればいいのかわかっているのに、指が震えて【通話】ボタンが押せない。
画面にポタポタと涙が落ち、そこで初めて自分が泣いていることに気がついた。
涙は止まることなく、流れ続ける。
結局、その日のわたしは尊さんに連絡をすることができなかった。