偽装夫婦~御曹司のかりそめ妻への独占欲が止まらない~

 ひどく胸騒ぎがして、秋江さんに連絡をした。彼女は口止めをされていたようで、最初はごまかしていたけれど、そのうち耐えきれなくなったのか、彼女がこの家を出て行く用意をしていることを知らせてくれた。

 飛行機を一便早めて帰ってきて正解だった。予定通りであれば、この部屋はすでにもぬけの殻だったに違いない。

「嘘は終わりにしたいんです」

 久しぶりに聞いた彼女の声は、覇気が無く今にも消え入りそうだった。

「それは、僕との関係を終わりにしたいということ? けれど最初からわかっていたことだろう? そんな理由では今更納得できない」

 自分で言っても落ち込むセリフ。それに彼女は小さくうなずいた。

「尊さんは……おばあ様が嘘をついていることを知っていたんですね?。わたしが薄々気がついていたにもかかわらず、丸め込んで今日まで引き延ばした。卑怯です」

 きっと彼女の本心じゃない。わかっていても、やっぱりきつい。

「たしかに、僕が卑怯だったことは認める。でもそれは――」

「言い訳は必要ありません。わたしは善意で嘘につき合いました。それを裏切ったのは尊さんです」

 彼女の言葉の通りだ。彼女にそういうことを言わせてしまった自分を殴りたい。

「それを言われてしまうと、きついな。でも本当に理由はそれだけなのか?」

 本音だった。あのときはどうしても、一刻も早く彼女を自分の元に置きたかった。けれど祖母の嘘を早くにきちんと説明しなかったのは、完全なる自分の判断ミスだ。

しかし気持ちを通じ合わせた今、話し合いの時間ももたずに逃げるように出て行くなんて彼女の性格からして考えられない。

 まさかすでに彼女が……。

「尊、そのくらいにしなさい」

 入口の扉から声がして振り向く。おばあ様が車いすでこちらにやってきていた。
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